HOMENovel

小説「ハーツ」


夢幻の世界に
僕は何を求めていたのか
ただ一つ言える事は
「夢で終われた方が、幸せだったのかもしれない」


ねぇ、君の声を頂戴
君の名前を
君の過去を
全部全部、僕に寄こせ

歯車は回る
真相は愚かで邪で
誰も覚えてすらいない

僕は踊る
歪んだ一片の
美しい夢の中で



ハーツ


 オルゴールを作るのはとても楽しかった。その小さな箱庭は、僕の願望そのままにただただ美しく、ネジを巻けば宝石のようにキラキラと回り続けた。
 心を込めて作った玩具には、命が宿るという。僕の箱庭にも、確かにそんな温かみが感じられた。
「ワインド・ザ・ワールド」。
オルゴールに名前を与えた。それだけで箱庭世界に光が満ちたような気がした。僕は満足して、眠りにつく。微睡みの海にも、オルゴールの歌は優しく響く。

ネェ、ホントウニ、ソレデ満足?・・・

回転木馬に乗って、ピエロが笑う。首をかしげて。

ホントウハ、モット叶エタイ願イがアルンジャナイノ?・・・

“早熟の天才”―――そう呼ばれた若きぜんまい職人は、理想と現実の狭間で苦悶した。

「面白くない」

 生きているとは何か?死んでいるとは何か?
 命とは何か。命とは、…歪みだ。この世界にはまだ、歪みがない。歯車は空っぽだ。ネジを巻けば動くだけの。もっと命が、歪みが欲しい。

 ソレナラ、君ノ命ヲ与エテシマエバ良イ

「僕の命を?」

 ソウサ、君ガ持ッテル命ハ、トテモトテモ美味シソウ

 僕はピエロに魅入られるように手を伸ばす。

「どうすれば良い?」

 ピエロは滔々と語りだす。

 作品ニ、命ガ欲シインだロ?そレナら作者も命をかけなくちゃ。…僕ガこの世界に生きた、歪んだ人間を呼ンであげる。彼らをパーツに組ミ込めば、世界は彩りを増すだろう。でも、意志ある者というのは抵抗もすルからね、返り討ちにあッタら命は無いよ。
 君は世界を管理し、来場者たちに一つ嘘を吐く。内容は君ニ任せよう。嘘がバレなければ君の勝ち。バレたら君の負けダ。勝てば敗者を好きにできる。生かすも殺すも思うがままさ。それダケの力も与えよう。ただし負けたら、その時は…

 手の内のピエロはその時、確かに微笑んだ。

 契約はオシマイ。僕と交代してもらうよ、ワインド。
 ピエロは消えた。そして、この世界の管理人(ピエロ)は僕になった。


◇◇◇◇◇


強盗、放火犯、爆弾魔、詐欺師、薬物中毒、思想犯、殺人狂

大方の歪みは手に入れた
染み込むように
あるいは
亀裂となって

クライム達はいつも怯えている
彼らは思い出せないだけだ。自らの罪を
僕は……忘れない


歌が聴こえた
回る回る 僕らのステージ
消える消える カルマの連鎖に
君は何を見つけるだろう
Well come to our world!!

さぁステージを始めよう
Wind the stage, and Let’s start NEW GAME.


「おいで手を取り、死さえも越えて」


「お前は何者だ」
「私を殺すのね」
「この気違いピエロ」
「君がそう思うなら、そういう事にしておこう」

お決まりの台詞
お決まりの仕草
断罪の昏い悦びに浸り
お決まりの手順
お決まりの質問

そして、最後の審判

「さて、君はどちらを選ぶのかな」

判断基準は“気に入るか”
それだけ。

醜く歪んだ愛しき(アニマ)
一緒に踊ろう
僕と、この世界で


◇◇◇◇◇


ヒトの生死は覆らない

命を奪う力は、生死を奪う力であって、生死を反転する力ではなかった。
殺さないでと泣く者にも
殺してくれと叫ぶ者にも
僕はほほえみ返しただけ

気づくものはいなかった。
嘘は真実となり、真実は嘘となった

変わらない世界に退屈し始めた。
 クライムは歪みをもたらす。最早当初の願望は到達し、過ぎ去っていた
世界を創るのは楽しい。けれど。

僕は次第に違う願望を抱くようになっていた。

―――僕に気づいて欲しい。
この世界の歪みの核心に―――触れて欲しい


◇◇◇◇◇


彼らの(ハーツ)を忘れない
僕の(スペード)を誰もが忘れても。

溺れて死んでもいいと思った
どうせ誰も覚えちゃいないのだから。

ある時、世界が壊れはじめた

笑わない少女が笑った
きっとね、本当の永遠とはこういうことなんだよ

現世に帰っても、此処と何が違うというんだい
決められた位置で回り続ける歯車
夢を見ていられるだけ、ワインドの方がずっと幸せだろ

僕は結局、ハートしか壊せなかった

欲しくなったのさ、罪(クライム)が
僕は空っぽだった 僕は一人だった
僕はそこにいなかった

いない僕を見つけてご覧
君のハートを僕におくれ

君も駄目だった またはじめから
今度は誰と踊ろう
夢の中なら誰とでも

……お父さん。

涙化粧は消せやしない
仮面もつけて 衣装もバッチリ
それで?僕は?
まだ泣いている また泣いていた

さようなら、僕のクライム
僕と共に永久におやすみ


◇◇◇◇◇


覚えてる?壊れてしまったオルゴール
外れた3本のネジは、どこへ行ってしまったの

僕らは君を忘れない
ワインド、君を忘れない
僕らはきっと君が好きだった

さようなら、僕らのピエロ
永遠の世界で、君をずっと待ってる
ずっと、ずっと。

なんて素晴らしい、Wind the world!!


◇◇◇◇◇


どんな世界を選び
どんな幸せを望む?
君が忘れてしまっても
僕らはずっと忘れない
回り続ける世界で
君の帰りを待ってる

ワインド、君は僕らの王様だった
ワインド、君の名前を知ることもなく
罪は永遠に断たれてしまった

僕らは待ってる 回り続けながら
落ちてく その意味を問い続けながら

オレンジ色に染まってく世界
君のいない世界
君のいた世界
君といた世界
君が回す世界

満ち足りた世界は 藍色に染まってく
僕らを乗せたまま 幸せに沈んでく
ワインド、君を忘れない
僕らは君を覚えてる
僕らは君を覚えてる

もう一度、歌を歌おう
君の教えてくれた歌を
君が忘れないように
君を忘れないように

もう一度、歌を歌おう
この素晴らしい世界へと
僕らの愛した世界へと
君の愛すべき世界へと

君が愛した世界へと







Fin.




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